今日も逍遥館 ~ 京都大学吉田南総合図書館のブログ ~

京大吉田南総合図書館にまつわる日々の話をスタッフが気の向くまま紹介するブログです

潜入ルポ『子規になりきる!百万遍句会』

こんにちは!逍遥館です。

9月に行われた読書会に引き続き、10月23日(木)、グレート・ブックス企画【グレート・ブックスと私「子規になりきる!百万遍句会」】が開催されました。「句会って一体どうやるのん?」という疑問と好奇心の赴くまま、今回も(俳句ド素人の)図書館の中の人が、参加者の一人として潜入しました。今をときめく俳人佐藤文香(あやか)先生と、いつもさわやかな佐々木幸喜先生による「百万遍句会」の始まりです。

 ----------------------------

受付開始時間には、既に会場入口は受付を待つ人の行列!これは予想より盛況になりそう(わくわく)。句会開始時刻の17:30時点で、予約者のほぼ全員が会場入り。最終的には16人の参加者となりました。

f:id:cymslib:20141027164727j:plain

もうすぐ句会が始まるよ

まずは佐々木先生から、『正岡子規(のぼさん)になりきるための30分』と題し、歌の歴史や、正岡子規の人物、俳句理論など、その時代の背景を織り交ぜながら、ご説明いただきました。正岡子規以前の俳諧は、ユーモアを織り交ぜた作品が流行っていた、「俳句」と言い始めたのは正岡子規が最初らしい、日本人のアイデンティティから日本の四季と歳時記についてなど、いろいろな「へーそうなんだ」という情報がたくさん詰まった内容でした。佐藤先生もちょいちょい佐々木先生の講義を補足。

f:id:cymslib:20141027164754j:plain

歳時記について説明する佐藤先生。先生「スイカはいつの季語だと思いますか?」
参加者「うーん・・・夏?」先生「ぶー。秋なんだよね実は!(ドヤ顔)」参加者「(ノ゚⊿゚)ノ

そして佐藤先生のリードのもと、いよいよ今回のメインイベント、句会(正確には「借り物句会」)の始まりです。まずは簡単に句会の説明。先生が「句会やったことある人手上げてみて」と言うと、6-7人から手が上がりました。すごい!

「借り物句会」は、だいたい以下のように進みました。

1. 付番された俳句(20作。作者は秘匿された状態)リストの書かれた紙を参加者に配布
2. 1-20番まで書かれたくじを引く。この番号は俳句リストの番号と連動
3. 引いた番号が自分の句。自分の句を確認
4. 選句。俳句リストから、自分の句以外で「この俳句は良いな」と思ったものを各自選び、特によかったもの(特選)1句、良かったもの(並選[なみせん])2句に、しるしをつける。選ぶ時間は15分程度
5. 選評。佐藤先生が指名しながら、一人一人の選んだ句の番号を皆で聞き、俳句リストの用紙に特選と並選の数を俳句の上にメモしていきます

f:id:cymslib:20141028094028j:plain

6. 全て開票後、得票の多かった俳句から「開いて(講評して)」いき、その俳句を特選にした人が理由を発表
7. 最も評価を得た俳句を詠んだ(今回はくじを引いた)人の発表

 

f:id:cymslib:20141027165129j:plain

選句の最中。皆さん真剣な眼差しで俳句と向き合っています。

 

ちなみに、佐藤先生によると、一般の句会の進め方は、

投句 → 選句 → 披講(ひこう) → 選評 

となるそうです。今回の借り物句会は、文字通り俳句を借りているので、投句を飛ばして、選句から入りました。そして通常は選評の前に俳句を読み上げる(披講)のですが、今回はこれも飛ばして選評へ移ります。

 

さて、選句開始。

佐藤先生「後で、選んだ理由を言ってもらうので、何か考えといてください。どんな理由でも良いです。」

参加者「俳句の知識がない人は、どんな風に理由をつけていいのかわかりません。」
佐藤先生「んーそうですね、じゃあ俳句が初めてという人のためにヒントを言うと、

  • 言葉を分解して考える
  • 内容を見て考える
  • 音を見(聞いて)て考える
  • 字面を見て考える

っていう感じかな。あとは、メタファー(隠喩/暗喩)はなしね。例えば、この『釘』というのは実は小人なんです、とかそういうのはだめ。誰がどう見ても釘は釘だし!」

会場、笑いが起こります。

15分後、選評へ。参加者からの評価が高かった(特選、並選の数が多かった)俳句の中で、いくつかの俳句を挙げてみます。

(:が、参加者がその俳句を選んだ理由)

寒からう痒からう人に逢ひたからう
:寒いだろう痒いだろう、と人を思いやっている歌でよかった
:韻を踏んでいてよかった

新豆腐黙るといふは火のごとし
:豆腐と火というコントラストがよかった
:黙ると言ったからこそ、怒りが際立った

嗚呼夏のやうな飛行機水澄めり
:嗚呼がどうして漢字なの?ひらがなにすればいいのに

おとうとの龍へんとうせんつうと云うてかへる
:どう読むの?とよくよく見ていたら、だんだん面白く感じてきた
:龍(ドラゴン)なのに、へんとうせんつうといって帰ったんだ(笑)

冬近く今年は髯を蓄へし
:親近感が持てる
:「今年は」ということは去年はどんなことしてたのか気になる

うれしさや七夕竹の中を行く
:七夕の竹の中を行くという普通のことに「うれしさや」と入れる意外性
:竹に短冊はかかっていたのだろうか、かかっていなかったらもっといいなと思った

くれといへはしたゝかくれし小菊哉
:くれといったら思ったよりたくさんくれたので嬉しかったり困ったりしたのかな?
:子どもが母親にどっさりあげている情景が思い浮かんだ

釘は木を衰えさせて天の川
:釘の穴と天の川の星のぽつぽつが共鳴しているように感じた
:大木が衰えていく様と天の川との組み合わせが壮大さを感じさせた

らふそくのくらさの夢のふくろふよ
:「夢」だけが漢字で、他はひらがな。見た目がふわふわしている感じで良い
:「らふ」や「ろふ」という音が良かった

参加者の皆さんからは様々な意見が上がり、時には批評もしながら、それぞれの思いや感性がぶつかり合う、活気あふれる時間でした。

最終的に今回の句会で最も評価を得た俳句は、「寒からう痒からう人に逢ひたからう」と「新豆腐黙るといふは火のごとし」の2句となりました。前者の句は佐藤先生の詠んだ(くじを引いた)句だったので、同着の後者を詠んだ人に景品が送られました・・・ということで、図書館の中の人が偶然にも当選!景品は佐藤先生の句の小冊子「S極N極」。やったやったヽ(*´∀`)ノ 借り物の句に感謝(けして八百長じゃありません)。

ちなみに、今回使用した20の俳句の作者は、正岡子規はもちろん、佐藤先生や、先生の俳句仲間の方々の作品もありました。(詳しくはこの後の<おまけ>をご参照ください。)

 

句会の最後10分間は質疑応答。(Qは参加者の方より、Aは佐藤先生より)

Q1. 俳句はどう作ったらいいのだろう?------------------------

A1. 私の場合、心に余裕がないとできない。あとは、句会に参加して、作れと言われて作る。締切を設けて作るとかね。句会に出ると、たくさん作ることになるから、練習になる。1日10句友人に送るとか、してみたらいいんじゃない?


Q2. 俳句の良し悪しは?------------------------

A2. 料理にB級グルメとか高級フランス料理とかがあるように、俳句にもいろんなタイプの良さがある。だから、どれが良いというのは難しいけど、「悪いもの」っていうのはある。それはありきたりなもの。今それを言わなくてもいいじゃん、って。それから、あまり奇抜すぎても相手に伝わらなければそれはよくない。どんなにありきたりなものでも、助詞一つで句の感じがガラッと変わる。俳句をする時は、「選ぶ能力」が必要。多作多捨(たさくたしゃ)。200句作って、199句がくだらない句だったとしても、どれを出そうか、と投稿の時に選ぶ1句がよければ、評価が得られる。その1句を間違えれば、当然評価は得られない。私の作り方は、小説や随筆みたいに時間をかけて書き上げるのではなく、とにかくがーっとたくさん作って、その中から「これいいやん」と思えるものを選んできた。選ぶ力があれば、俳句はできる!性格でいったら、からっとした性格の人とか、向いてる気がする。

f:id:cymslib:20141028094104j:plain

そして和やかな雰囲気で終了。佐藤先生と佐々木先生の、おもしろおかしな掛け合いも相まって、場がとても盛り上がったなあと実感。閉会後も、まだ話したりない感じの参加者の方々が、最後まで佐藤先生を囲んで懇談されていました。俳句初心者の図書館の中の人でしたが、今まで知らなかったことが満載で、おなかいっぱいに。これを機に俳句、ちょっとやってみよかなーと思わされました。どうもありがとうございました!(その後の親睦会も予想以上に楽しかったです。佐藤先生や佐々木先生、スタッフの赤裸々発言が続出しましたが・・・それは、また別のお話!)(M)

 

 

 <おまけ>

ちなみに、今回挙げた句の作者は以下の通りです。
----------------------------------------------------------------
寒からう痒からう人に逢ひたからう/冬近く今年は髯を蓄へし/うれしさや七夕竹の中を行く/くれといへはしたゝかくれし小菊哉(正岡子規)新豆腐黙るといふは火のごとし(谷雄介)嗚呼夏のやうな飛行機水澄めり(佐藤文香)おとうとの龍へんとうせんつうと云うてかへる(外山一機)釘は木を衰えさせて天の川(神野紗希)らふそくのくらさの夢のふくろふよ(山口優夢)

 

 

 

 

トップへ戻る