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今日も逍遥館 ~ 京都大学吉田南総合図書館のブログ ~

京大吉田南総合図書館にまつわる日々の話をスタッフが気の向くまま紹介するブログです

日本文学の旅 in 米国 -Extended Version part 2-

 

こんにちは!逍遥館です。
前回に引き続き、2014年10月発行のLibrary Newsletterに掲載した特集記事「日本文学の旅in米国」のExtended Version part 2をご紹介します。(part 1についてはこちら)今回は澤西さんの留学先、プリンストン大学のこと、それから実際の留学生活についてお話しくださったことをご紹介します。
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プリンストン大学の図書館について教えてください

日本近代文学関連の蔵書が充実していて、日本にいるのと変わらない研究環境でした。渡航前、研究資料として芥川の全集を持っていこうか迷ったのですが、結局プリンストン大学の図書館に全巻所蔵されていました。調べてみると、他にも日本文学の基本的な文献は大方そろえられていて、とても驚きました。

僕がよく利用していたのは、京都大学でいえば附属図書館にあたる「ファイヤーストーン図書館(Firestone Library) 」でした。ここは朝8時から夜12時近くまで開いているのは勿論ですが、その他の学内の図書館も同じように遅い時間まで開いていて、全図書館をあげて学生の勉強を深夜までサポートしていました。実際、生徒たちもかなり遅くまで図書館を利用していて、課題や研究に取り組んでいました。また、図書館の中に無料のスキャナーが導入されていて、必要な箇所をスキャンすることによって現物を貸出ししないで、持ち運びできるようになっていました。

学内ではipadやMacbookの普及率が非常に高かったので、コピーや貸借サービスよりも、プリンストン大学の実情に根差した利便性の高いサービスに感じました。僕も幾つかの本をスキャンして持ち帰りました。その分、実物の持ち出しには厳格なようで、退館時には毎回、警備員に鞄の中を開けられ、本を違法に持ち出ししていないかチェックされました。また本や論文が、PDFデータになってネット上にアップロードされて、学生であれば手軽にダウンロードできるようになっていて、実物に触れることなく文献を閲覧できるようになっている場合が日本よりも多いように感じました。

研究をしていると、実際に紙媒体に触れながら寄り道をすることによる発見が多々あるので、手放しに賞賛できるシステムではないのですが、学部生の教育のためと割り切れば、多くの文献に簡単にアクセスできることは有益な面が多いのではないかと感じました。実物だと、誰かが借りてしまえば他の人は見られないですし、教師側もPDFを送付したりURLを指示してしまえば教材をコピーして配る手間が省けます。

図書館は夕方になると満席になっていました。課題の量がとても多いそうで、平均睡眠時間が4時間という声も聞きました。学生の多くが非常に勉強熱心で、日本の大学とは ”エライ” 違いだなと感じました……

  プリンストン大学について、少し紹介してもらえませんか?

プリンストンの町は小さく閑静な町で、徒歩40分あれば、ほぼ主要なポイントはまわれてしまうくらいでした。大学のためにあるような町で、治安もよく交通の便も良いところでした。ニューヨークとフィラデルフィアの中間地点にあり、両方の都市に1時間20分くらいで行ける位置でした。大学周辺をちょっと離れると途端に治安が悪くなりますが、大学周辺は日本よりも治安が良いと感じました。

おもしろかったのは、大学生たちは学校から一歩も出ずに生活していることです。基本的にそこで生活が完結してしまっている。病院も銀行も大学内にある。朝の8時から朝の4時まで開いているショップに、24時間開いているジム。

友達はいるし、学食もたくさんあっておいしいし、外に行く理由が何一つないんです。僕たちは大学に接している通りにある、ナソークラブ [NassauClub] の上に泊まっていたのですが、大学を一歩出た通りに住んでいると現地の学生に言うと「遠いし行かない」と言われてしまいました。皆大学の中で過ごすか、外へ出かけるならNYやフィラデルフィアに行く。

大学と最寄駅が隣接していて郊外に出やすいからでしょうけど、大学を出たすぐの場所でも「遠い」と言う彼らの感覚に驚きました。

それから印象に残っているのは、大学内の食環境が充実していたことです。学食って、日本だと、ひとキャンパスに一つか二つあればいい方だと思うのですが、プリンストンは各建物ごとにあるんじゃないかと思うくらいにたくさんあり、それぞれに特色がありました。教職員専用(テイクアウで利用可)、おいしい所、ちょっとしたカフェとか。同様にメニューも多様に取り揃えてありました。

少し話が逸れますが、アメリカなら、大学の学食だけではなく、レストランや、それこそ街中のラーメン屋でも、多様なメニューがあるそうです。例えば、ビーガン(ベジタリアン [菜食主義者] のうち、畜肉・鶏肉・魚介類などの肉類に加え、卵や乳・チーズ・ラードなど動物由来の食品を一切とらない人)用のメニューや、宗教的に制約のある人のためのメニューが当然のようにあることを知り、日本と違ってビリーフ(信仰)の違う人への配慮がしっかりなされていると感じました。

それから、大学のことで特に驚いたことは、学内にはホール(劇場)があったのですが、そこに学生じゃない、プロの劇団の人が来て、NYでの公演前の腕試しのような感じで公演していたこと。僕らがいた時には、「フィガロの結婚」をしていました。学生は5ドルくらいで鑑賞ができ、一般の人も30ドルくらいで見られるという信じられないくらい良い環境でした。

  どんなふうに一日を過ごしていたのですか?

渡米中、住んでいたところは寮やホテルではなく、先ほど紹介したナソークラブという建物で、1階はラウンジで2階が宿泊スペースになっていました。ラウンジはジャケットと革靴要着用だったので、なるべく使わないようにしていました。ナソークラブにはレストランが併設されていたのですが、同じようにドレスコードがありました。きっちりした服を持って来ていなかったので、使えませんでしたね(笑)。それでも、朝は4時に起床して、誰もいないラウンジに、とりあえずカッターシャツと革靴だけ履いて行って、そこでコーヒーを飲みながら(午前)8時まで作業していました。8時ごろになると町のカフェに行って、授業の時間まで過ごしました。カフェには、いつもきまって特定の院生さんがいて、彼といつも会って、挨拶がてら話をしていました。それから授業を聴講し、人に会って、お昼を食べてから図書館で夜まで勉強して、夜10時くらいにへとへとになって宿に帰るといった感じでした。

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↑宿泊先のナソークラブ(正面)

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↑同ラウンジ 

授業は1日に1コマか2コマ、毎回違う授業を聴講していました。現地の人とは一日に一人二人会う約束を取っていました。

毎週水曜日のお昼は、東アジア研究所が開催する「ランチコロケアム[Colloquium Lunch Talk]」を公聴しました。「ランチコロケアム」とはお昼ご飯と飲み物が出て、それを食べながら、だれか一人、先生だったり、院生だったりが前で発表し、質疑応答と議論がされる場です。僕が聞いた時には、日本の開国直後の蘭学の話をしている人に対して中国文化研究の人が意見を述べて議論をされていましたが、専門外の分野についてでも「専門家と対等に議論ができる」ということに本当にびっくりしました。アメリカの大学院は日本の一般的な教育システム(修士2年、博士3年)と違い、博士課程が5年間なんですが、その2,3年目に試験があり、自分の決めた主専攻1つ、副専攻2つの計3つの分野で、主要関連文献を各50-100冊読み、それに関連した問いの中からいくつか選んで48時間かけて論じるという試験が必修であるらしいです。それに向けて1年間勉強をする。この試験を通らないと、博士論文を書く資格が取れない。だから、幅広い領域に通じていて、違う分野の人の発表でも、ある程度は背景を理解していて、議論ができる。日本では、乱暴な言い方をすれば修士論文が通ったら博士課程に行けてしまうのに・・・カルチャーショックでした。

学生にとって、この場は、発表力を鍛え、また他の先生や学生がどんな研究をしているのかを知ることができる場になっていました。

コロケアムを開催することで、研究科全体で一人ひとりを鍛えていこうとしているんだと思いました。

話がまた逸れますが、このコロケアムは、その場にいる誰もが議論に参加できる形式をとっているのですが、見ていて僕が思ったのは、人環(人間・環境学研究科)が目指している姿はこれなんじゃないのか?ということ。いろんな知識の人達が意見交流し、相手に自分達の見地からフィードバックしていくというスタイルが人環の目指していることで、それがここ(ランチコロケアム)にあるのではと思いました。

ちなみに、コロケアムでの発表者は、内部の人間だけでなく、外部からゲストを呼んだりもしていたようでした。面白そうなテーマを発表してくれそうな人を、大学の外(海外も含めて)から引っ張ってくるようです。お昼休みの1時間半で会を終わらせようとしていましたが、質疑応答の時間が足りなくなるほど議論が盛り上がっていました。

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↑ランチコロケアムの様子(ランチを食べながら、発表者のプレゼンを聴いている)

 それから、毎週月曜日の夕方は、午後6時半から8時にかけて「日本語テーブル」という、日本語学習をしている学生達が集まって日本語を喋りながらご飯を食べる会に参加していました。渡米前に現地にいる日本語教育の先生から「(授業を)手伝って」と連絡があったのがきっかけです。日本語教育の先生がコーディネータをしていて、日本語だけを喋る時間をつくって、日本語を使えるようにという趣旨で会を開いていらっしゃいました。

参加者は学部生の方が殆どでした。「え!」と思ったのは、学生はテーブルが終わると、そのままだらだら残ることなく「宿題あるからー」と皆さっと帰ってしまったこと。こちらとしては「飲みに行こうよ」と思っていたのに皆帰っちゃって…すごく真面目なんだと伝わりました。ですから僕もそのまま図書館に行っていました(笑)。

他には、日本の文化を研究している学生のインタビューに協力したり、自分の研究分野について日本語で授業をしたりしました。

 どのような授業をされたのですか?

授業では、芥川の「羅生門」について、日本の高校ではどういった位置づけなのかということや、下人の行為の是非の他にこんな読解ができるんだよという話をしました。事前に羅生門のテキストを読んで、こちらで立てた問いについて考えて来てもらい、その問いを授業で取り上げながらテキストの理解を深めていく形式で行いましたが、日本の学生と違って反応(レスポンスがある)が良かったです。例えば学生に、「なぜ下人が一人で羅生門の下にいたのか」「当時の京都の状況は?」などを聞くと、目線を振るだけで、手を挙げてくれる。答えもぼんやりとした感じじゃなくて、本文に基づきながら論理的にしっかりと答えてくれるのでありがたかったです。教えている側としても、わかってくれてるな、と手ごたえを感じられるので、安心して授業を進められました。

授業では4回生相当(日本語5年生)のクラスで教えたのですが、皆優秀でした。ずっと普通に日本語で喋っているのですが、授業をしていて日本語が理解できているのがわかりましたし、問いに対する答えも日本語で、それもタイムリーに喋ってくれる。日本の外国語教育との違いを感じました。大学に入って、4回生になる頃には、学術的な会話の入り口くらいまでにはみんな到達していて、本当に驚きました。現地の学生の前で授業をする体験は、僕も大いに刺激を受けました。

興味深かったのは、もともと日本出身の学生がいて、(彼はずっとハワイで暮らしていたようですが)授業後に彼から昔日本の高校へ留学した際に受けた授業を思い出したと言われたことです。話を聞くと、授業の内容というより、僕の授業スタイルがそう思わせたようです。プリンストン大学の場合、先生が一方的に喋っているか、先生は一切話さず、学生同士が議論をするかの2パターンのみらしく、先生が話をふって主導権を握りながら学生をひっぱっていく授業スタイルはとても珍しい。彼から言わせるととても日本らしい授業スタイルだと感じたそうです。彼の反応は、僕にとって全然思いもよらないレスポンスでした。教案(学習指導案)を練っている時には何も考えずそういう授業を組み立てていましたが、彼の指摘でその指導法が日本と言う文化圏に由来するものなのだと気づかされました。 f:id:cymslib:20150114141524j:plain
 ↑日本語クラスでの授業風景(午前のクラス)

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↑日本語クラスでの授業風景2(午後のクラス)

  では、週末の過ごし方は?

週末になると、フィラデルフィアやミシガン大学に出かけて、アジアスタディーズ*1の学会や漱石の多様性 [soseki's diversity] *2の学会に参加したりしていました。また、旅行も兼ねてボストンやニューヨークに行きました。作家のホーソーンの生誕地がボストンの近くにあり、お墓参りをしたり、ニューヨークでは美術館やビレッジバンガード(老舗のJAZZ Club)に行ったり、ミュージカル鑑賞などを楽しみました。個人的にはボストンの旅が一番楽しかったです。ホーソーンの聖地巡りも堪能できましたし、シーフードがとてもおいしかったです。(下の写真はニューヨークで撮影)

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 平日も週末も、たくさんの発見や驚きがあったようです。個人的にはランチコロケアムと現地学生の日本語習熟度に驚きました。個人差はあれど、平均的に皆とても勉強熱心なんだろうなと感じました。あとロブスター。一度食べてみたいです。
次回は最終回、留学後に得たもの、将来の留学生に向けてのメッセージをいただきました。乞うご期待!(M)

*1:アジア研究協会主催の学会。通称AAS

*2:Diversity in Soseki conference.「漱石の多様性」会議(2014.4.18-20 ミシガン大学)

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