今日も逍遥館 ~ 京都大学吉田南総合図書館のブログ ~

京大吉田南総合図書館にまつわる日々の話をスタッフが気の向くまま紹介するブログです

潜入ルポ「自由論」グレート・ブックス読書会

こんにちは、逍遙館です。

 

2016年6月27日(月)、第11回グレート・ブックス読書会が開催されました。今回取り上げられたのは、J.S.ミルの『自由論』。

ブログへのupが遅れに遅れ、申し訳ございません。

f:id:eymslib:20160901174304j:plain

J.S.ミルについて、皆さんはどのくらいご存知なのでしょう?19世紀イギリスに生き、一般的にはベンサムが提唱した「功利主義(Utilitarianism)」を受け継ぎ、発展させた人物として知られます。

「功利主義」って、単語だけ聞くとなんだか徹底した利益追求型のギスギスしたイメージを受けるかもしれません。ですが功利主義はそもそもそんな意味ではなく、J.S.ミルにしてもまったくもってそんな人ではありません。

功利主義は大雑把に言って「最大多数の最大幸福」を良しとします。そしてJ.S.ミルについては、私の知る限り(大して何も知りませんけれども)”これまで出会った中で最も性格の良い人!”です。繊細すぎて、育ちが良すぎて、人が良すぎて心配になります…。

 

テキストは光文社古典新訳文庫版が使用されました。岩波文庫版もありますが、それよりも意訳が多く読みやすくなっているとのことです。岩波文庫版は、訳注が多いとのことで本格的に読むならこちらも参照しないといけないのでしょう。

 

この読書会では、『自由論』の第ニ章と第三章が主に取り上げられました。

第二章では「正しくても、間違っていても、個人の意見を抑圧することは不法である。」と主張されています。真理は、その根拠を知るとか反対意見によって再吟味されることでより力強い真理になる。また、間違った意見でも別の面では真理かもしれない。ある意見が間違っていてもその意見に価値を見出そうとするのはミル以前にはあまり見られないとのことです。

 

「自分の意見に反駁・反証する自由を完全に認めてあげることこそ、自分の意見が、自分の行動の指針として正しいといえるための絶対的な条件なのである。全知全能でない人間は、これ以外のことからは、自分が正しいといえる合理的な保証を得ることができない。」(p.52より引用)

 

この言い切っちゃった感…。

自分が間違っている可能性を前提とし、他人の意見と対照して、自分の意見の間違いを正し、足りない部分を補う…。失敗した実験方法も、経験の一部として共有する科学のあり方に通じるものがあるように思います。

 

 第三章では「個性の涵養」について述べられています。

「ひとびとが個性的であれば、その営みも個性的になるので、同じプロセスをとおして人間の生活も豊かで多様になり、活気に満ちる。そして、高次元の思考と高尚な感情に、ますますたっぷり養分が補給される。そして、人類の一員であることの意義がますます大きくなるので、すべての個人を人類に結びつけるきずなも、ますます強くなる。」(p.153より引用)

 

ミルは、ひとびとが個性的で多様であることを「善」であると断言します。ただし、"人様に迷惑をかけない範囲で"…という条件付きです。これが有名な『危害原理』というものです。

  

『危害原理』とは、以下のように述べられています。

「人間が個人としてであれ集団としてであれ、ほかの人間の行動の自由に干渉するのが正当化されるのは、自衛のためである場合に限られるということである。文明社会では、相手の意に反する力の行使が正当化されるのは、ほかのひとびとに危害が及ぶのを防ぐためである場合に限られる。」(p.29-30より引用)

 

コーディネーターの豊川さんは、ミルの考える「真理の特性」に注目されたとのことでした。西洋哲学の伝統的な考え方では、真理は"確定したもの、神様のようなもの"で静的なものであるのに対し、ミル(とプラグマティズム)の考え方では、"ひとりひとりに個別の真理がある"、"真理とは相対的なもの(個人、時代、地域などで変わりうる)"、"真理を絶えず検証し、真理とされるものの意味・意義を忘れないことも目標"と動的なものです。

ミルはイギリス経験論からは逸脱しており、むしろ後に登場するプラグマティズムを先取りしているように見えるとのことでした。

 

また、「危害原理のもうひとつの適用」として、慣習等による個人の束縛を散々否定しておきながら、「意見の発表を封じるのは特別に有害なのだ」(p.45から引用)とミル自ら規範性(~すべし)を導いてしまっているという指摘もなさっていました。

 

本書は、他にも突っ込みどころ満載です。脇が甘すぎです。でも、そういったことは、ミルの「自由論」が放つ輝きをいささかも損なうものではありません。

(むしろ、性格の良さがまぶしすぎます…)

 

f:id:eymslib:20160912151829j:plain

参加者のみなさんからのご意見は以下の通り。

・少々内容が抽象的で、素人には少々難しかったです。
・積ん読してあった自由論を読む気になりました。良い時間をありがとうございました。
・論点がまとめられていて、わかりやすくよかったです。
・よかった(質疑討論も含め)。ミルの他の本も読みやすくなった気がする。

……なんでしょうか、ミルの性格の良さに感動しているのは私だけでしょうか。しかし、私のような少数かもしれない意見も、「自由論」的には大いに主張して良いのでしょうねっ。

(A)

 

トップへ戻る