こんにちは。逍遥館です。さて、みなさん、図書館の本を利用しようと思ったら資料がボロボロ、クタクタ、びりびりといったこと、ありませんか?
吉田南総合図書館の講習会といえば15分シリーズなのですが、今回は90分の講習会を開きました。先着5人までは修理実習付です。
<3月18日(水)> 「こわれた本、なおしませんか? 資料保存講習会(修理実習付)」
図書館の本はたくさんの人が使います。破損が激しいものもあります。扱いが悪いわけではなくても、たくさんの人に利用されるわけではなくても、図書館の蔵書となることで何年、何十年、何百年と年月を経て利用されると、やっぱりちょっとずつでも劣化します。まずは資料をできるだけ劣化しないように環境を整えるといった予防の考えが資料保存という仕事のなかでは非常に大切です。吉田南総合図書館では昨年度カビの被害のためにしばらく使えない資料があり、みなさんに大変ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません*1 湿度が高くてカビの生えやすい日本では、図書館の環境を整えることにも苦労を要しますが、書庫の環境の把握、除湿器等の設置だけでなく、大切な資料がいつでも使える状態に保てるよう日々の点検を続ける必要があります。今回の講習会では資料を大事に扱ってもらいたいという気持ちをこめて、学生さんや教職員のみなさんに京都大学の図書館のそういった「資料保存」という取り組み*2を紹介しつつ、本をなおす実習をしていただきました。
90分の講習会のうち、たっぷり70分が実習です。たっぷり写真でご紹介します!
1:破れた本
和紙(薄ーい典具帖)と糊(生麩糊)で紙の裂け目を補修します。
そのまま乾かすと糊の水分で紙が波打ちます。必ず平らにしてプレスします。
2:ページがとれた本
とれてしまったページに図書修理用のボンドをつけて、挟み込みます。ボンドはつけすぎないように気を付けながら…。
3:背のはずれた本
はずれた背(※本の各部の名称についてはご参考までにこちらのサイトを*3)
背の部分にプレスするのは難しいので包帯でぎゅっと巻きます
プレスにかけている間に、15分間ほどスライドにて、京大の資料保存の取り組みや、方針、そのもととなっている考え方(IFLA 図書館資料の予防的保存対策の原則)、普段参考にしているサイト*4*5*6*7の紹介をしました。また、資料そのものの性質、保管環境、自然災害、そして資料の取扱い方などが原因で壊れてしまった本を実際に目にしながらどんな対策を取ればいいのかもお話ししました。
例えば最後の“資料の取扱い”については書き込みをしない、付箋を貼らない、水にぬらさない、飲食しながら本を読まない、無理な複写をしないなど、使い方ひとつで資料の寿命を延ばすことができます。
熱心にお勉強されているのですが…図書館の本にこれは…T_T
また今回は修理の実習をしましたが、図書館のスタッフも修理や修復のプロではありません。それこそ難しい修理はせずに、状態を保つような対処法をとっています。業者に製本してもらう、最初から利用が多くみこまれ破損が予想される本は透明のカバーシールをかける、表紙が取れそうな本には中性紙のカバーをかける、中身が外れてしまた本も接着剤(糊やボンド)でなおすことが難しければ紐で結わっておくなど、利用ができる状態を保ちながら資料をそれ以上傷まないようにする処置をとっています。
背の革が劣化した洋書をカバーでくるんだり、酸性化の進んだ資料を中性紙の封筒にいれたり、簡易な帙をつくったり
利用も多くよく壊れてしまう岩波文庫へカバーを
もしみなさんがご利用になりたい本がカバーにくるまれていたり、紐が結わってある場合は、一度治療を受けた本ですのでいつもより一層丁寧に扱ってくださいね。どうぞよろしくお願いします。
修理を終えて、みなさん自分でなおした本を手に取って、にっこり(o^^o)
参加者は院生さん1名、職員さん2名と少し寂しい結果となりましたが、じっくりと実習ができました。今回、参加者の中にベトナムの研究機関の司書の方がおられましたが、“ここで勉強して自分の図書館でもやりたいな” と言ってくださいましたよ。ご自分の本を持ってきて修理されたうえに、図書館の本も修理してくださった院生さんからは、“本の性質も含めて詳しく理解できた。ぜひ定期的に行ってほしい” とのご感想もいただきました。ご参加ありがとうございました。(C)
◆おまけ◆
この講習会に関連して、事前に半日ほどかけて他の図書館の方をお迎えする形で研修もしました。その際には書庫内の除湿機やデータロガー(温湿度計)の設置や運用などについてもおはなししましたよ。各図書館での悩みなど、情報交換ができてとても有意義な会となりました。
【中の人日記:2/26】館内で某大学の職員さんを迎えて資料保存の研修をしました。まずは資料が劣化しないための「予防」が大切です。書庫のデータロガーや除湿器をご紹介。図書館の中がどんな環境なのかを把握して、対策をとります。 pic.twitter.com/YtiuHWsPbk
— 京大吉田南総合図書館(逍遥館) (@yoshidasouthlib) 2015, 2月 26
*1:カビの発生した書庫では、専門の業者さんにカビの処理を依頼し、無事に資料を利用できるようになりました。少し残っていた汚染資料があったのですが、春季休館中に中のスタッフで除染しました。
刷毛や掃除機で表面の汚れを払って、そのあとアルコールのついた布でふいています。
*2:京大の図書館には専用の情報共有サイトもあります。京都大学図書館機構 図書館常務改善検討委員会図書館員のための閲覧環境・資料保存環境
*3:可愛いイラストで分かりやすい!NPO法人書物の歴史と 保存修復に関する研究会 書物の保存・修復のための研究室
*4:資料保存全般の情報なら: 日本図書館協会 資料保存委員会
*5:他の図書館の資料保存活動です:東京都立図書館 資料保存のページ
*6:専門家の技術や体験が日々更新: 株式会社資料保存器材 今日の工房など
*7:本の作りから学べます:NPO法人書物の歴史と保存修復に関する研究会 書物の保存・修復のための研究室