こんにちは。逍遙館です。
3月5日(木)に、第5回グレート・ブックス読書会「蒲団 - 明治末期の恋愛、性、人間、自然」を開催しました。
今回も中の人がこっそり潜入しました。ブログへのアップがすっかり遅くなり、すみません。
読書会ポスターには、萌黄唐草(もえぎからくさ)をあしらいました。『蒲団』の最も有名な箇所に由来します。
さて田山花袋とは?『蒲団』とは?
インターネットで調べると、実際の人物がモデルになっており、主人公(≒著者)の女弟子に対する性的な感情を露骨に描写したため、一大センセーショナルを巻き起こした作品とのこと。
※インターネット上の情報は正確とは限らないですが、ちょっとした調べものや概要の把握には便利なツールなので、図書館員は実際かなり使ってます。
著者の没後50年以上経過していますので、青空文庫でも本文が公開されています。
以下がこの本でもっとも有名な箇所になりましょうか。
『大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡らげてあって、その向うに、芳子が常に用いていた蒲団――萌黄唐草の敷蒲団と、綿の厚く入った同じ模様の夜着とが重ねられてあった。時雄はそれを引出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟の天鵞絨の際立って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ。
性慾と悲哀と絶望とが忽ち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。』(岩波文庫 緑21-1 p.103-104より引用)
......いやちょっと、あのええっと...ちょっとキモいんですけど(- -;)
『この世の中に、旧式の丸髷、泥鴨のような歩きぶり、温順と貞節とより他に何物をも有せぬ細君に甘んじていることは時雄には何よりも情けなかった。』(岩波文庫 緑21-1 p.15より引用)
子どもを3人も産んで、家事・子育てを切り盛りしている奥様に対して、ドロガモとはなんたる言いぐさですかっ!!!レ(゚Д゚#)
で……こ、これって、グレート・ブックなんですか???
読書会がはじまりました。
さて、コーディネーターの林潤平さんから配布されたレジュメに沿って、読書会が進んでいきます。
『蒲団』は、日本文学史上における近代日本自然主義文学の確立を示す作品なんだそうです。ただし、フランスにおける、科学的方法の採用とそれに伴った客観的・非個性的態度を特徴とする自然主義文学の特徴を備えるものの、日本の近代日本自然文学は主観性を重視するという特徴があるとのこと。
コーディネータの林さんの丁寧なレジュメを見ながら、作品中での時間軸の流れに沿って、芳子女史の言動に逐一かき乱される、主人公・時雄の言動と胸の内にスポットを当てていきます。
また、モデルとなった実在の人物の、実際の言動とも比較します。
花袋が『自然』というものをどう捉えていたのか、について、コーディネーターの林さんから、問題提起がありました。
以下の箇所など
『行く水の流、咲く花の凋落、この自然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。』(岩波文庫 緑21-1 p.36より引用)
『時雄は堪え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。』(岩波文庫 緑21-1 p.38より引用)
参加者一同悩み、各々意見を出すものの、はっきり結論は出ず、まだまだ読み込めるところなのかもしれません。
(私には自身の身勝手さを自然の所為にしているだけ、と読めるんですが…)
読書会終了後のアンケートでも、たくさん感想を頂きました。
・文学作品について久しぶりに話し合う機会がもてておもしろかった。
・1回のときから行こうと思いながら行けず、今回初参加でした。読んで他人と話す機会がそこまで無いので、参加できてよかったです。もっと感想が聞きたかったです!
・感想や意見を言いあえて、とても面白かったです。
・皆の意見が少しずつでも聞けてよかったです。アットホームな読書会になったのでは?
・いろいろな読み方があると知りました。ありがとうございました。
・ちょうどよい人数で、いろんな人のはなしをきくことができて充実していました。
読書会の進行については、コーディネーターの方に全面的にお任せしており、どういう手法でされるのだろうと、毎回楽しみにしています。
個人的好みはさておき、今回は文学作品の読書会のお手本のような手法で、文学作品の読み方を体験することができ、たいへん参考になりました。
来月7月には第7回の読書会が予定されています。次回はなんと『カント』!
どうぞお楽しみに!
(A)